1993年、僕は23歳だった

その人は、普段は髪の毛がブワッと広がっていて
服装も、山登りか?っていう格好だった。

当然スッピンだ。
でも、美人だった。

入ったばかりで右も左もわからない頃、
初めての大きなステージで、
僕はその人に魅了されてしまった。

その人はソリストで、
ブワッと広がった髪をきっちり束ねて、
化粧もバッチリで、まるで別人だった。

でも、ステージが終わると
また元どおり、ブワッと広がった髪に
山登りみたいな格好に元どおり。

そのギャップにやられてしまった。

ほぼ話したことはなく、
唯一、その年のゴールデンウィークにあった
ヨーロッパ演奏旅行の最終日、
帰る日の朝ご飯で、
同席したのが最初で最後だった。

大した話はしていない、
っていうかできなかった。

それからほどなくして、
その人は合唱団を退団した。
北海道に行ったのを知ったのは
ずいぶん後になってからだ。

数年前の北海道の演奏旅行で、
久々に再会することになった。
当然だが、その人は僕のことを
いまいち覚えていなかった。

そして2015年シルバーウィークの最終日、
突然、その人の訃報を知った。

僕の中では、凛々しく歌う
その人の姿が今でも焼き付いている。

心よりご冥福をお祈りします。